23/02/17 Impressions - 映画「BLUE GIANT」を見て

公開初日から「BLUE GIANT」の映画を観てきた。

諸々思うところはあるものの、総評すれば満点オーバーの出来だったと思う。

諸々というのは、原作の東京における主人公のストーリー、およそ6,7冊を2時間に詰め込んでいるがために展開がめちゃくちゃに早いことがひとつ。

モーションキャプチャしたと豪語しているものの、それを落とし込む先の3Dモデルのクオリティが、同じことを試みた「THE FIRST SLAM DUNK」と比較する(比較するのも酷な話ではあるのだが)と、どうにも低いことがふたつ。

正直、この2点は原作の1巻が出たころから追いかけている身としても、批判するひとがいたら「おっしゃる通りです」と首肯せざるを得ない。そのキャラクター、そのエピソード、要る!?と思うこともしばしばあり、そこ削って心情描写に間を保たせろよ!と、かなり思った。

 

ここまではネガティブな感想になってしまったが、しかし、とにかく、とんでもなく曲と演奏が良い。ここで8億点付くので上記の2つのマイナスポイントは全部吹き飛ぶ。

全力の大と、洒落た雪祈、食らいつく玉田のトリオが、ジャズは感情の音楽である、ということを圧倒的に教えてくれる。頭ではなく、心で理解できる。魂が揺さぶられるとはこういうことなんだ、ということが刻み込まれる。ただひたすらに、アツい。

ライブシーンは例の3Dモデルが入ってくるので、気が散りはするが、正直どうでもいい。視覚の情報を気にする余地は、聴覚によって完全に奪われている。涙が湧いて出てくるし、ソロが終わったときには立って拍手しそうになる。

「THE FIRST SLAM DUNK」は映画館でのスポーツ観戦、と評されていたが、「BLUE GIANT」は映画館でのジャズライブだと言える。ブルーノートで聞こうと思ったら1万円しますけど、2千円で見ていいんですか?という変な遠慮の気持ちすら湧いてくる。

特にラストライブは本当に圧巻の一言だった。詳しく語ることは控えるが、そんな贅沢なことしていいの!?と思いながら震えて泣いた。泣きながら心の中で「上原ひろみさん、馬場智章さん、石若駿さん、本当にありがとうございます」と思っていた。冷静に考えてみれば、上原ひろみの書き下ろしが4曲もあるというだけですごいことだ。

だから、いろいろ勘案すると、この映画は音楽に全部予算突っ込んでしまったんじゃないか?と勘繰ってしまう。それで正解なのだけれど。

とにかく、本当にすごい音楽の映画だった。たくさんの映画を見た!とは言い難い人生だが、それでも、見終わったあとの放心状態というか、虚脱感というか、余韻でいうと、これ以上のものを体験したことはなかった。すごかった(小並感)。

 

ところで、劇中で「ジャズは瀕死」と雪祈は言う。

それはその通りで、自分は中学生の頃にMcCoy TynerのBlue Bossaに出会ってからその魅力に取り憑かれたが、実際のところ、身の回りでジャズを聞きます、という同世代に会ったことは、ほぼない。Suchmoscero、Yogee New Wavesは聞くのにジャズは聞かないのか?という言葉を何回飲み込んだか分からない。

だが、しかし、ひょっとすると、この映画で世間がジャズの魅力に気がついてしまうかもしれない。そんな期待すらさせてくれる、最高の映画で一週間を締めくくることができた夜だった。

 

今日(昨夜?)のお酒:観ながら飲んだ黒ラベル、共に観た友人と語り合うために飛び込んだ立ち飲み屋で飲んだハイネケンピルスナーウルケル

 

P.S. パンフレットのデザインがレコード風でとてもよい。マストバイ。